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うつ病・うつ状態

うつ病・うつ状態

心療内科や精神科でもっとも多い疾患のひとつです。


本来のうつ病は、「制止」という中核症状のため脳の働きが鈍くなり、思考力や判断力、行動力が著しく低下し、これまで困難なく出来ていた仕事や家事が出来なくなる病気です。
このため患者さんは、自分が頭が悪くなったのではと、不安になったり焦ったり落ち込んだりします。
「制止」が高度になると外界の刺激にほとんど反応しなくなることもあります。
うつ病の症状は、中核症状である「制止」と、二次的な心理反応としての「気分の落ち込み、悲しみ、意欲低下、疲れやすさ、不安や焦り」などがあります。
また生体を維持する機能(バイタルエネルギー)も低下あるいは変動し、不眠や過眠、食欲低下や食欲亢進なども出現します。

 

うつ病になりやすい性格傾向として、メランコリー親和型性格が有名です。
秩序やルールに忠実、真面目で責任感が強い、環境に過剰に適応しようとする、頼まれると断れない、自分を責める傾向などが特徴です。
真面目で仕事熱心なため、社会的には人望があり信頼される方が多いです。

 

うつ病の治療は、充分な休養と抗うつ薬による薬物療法が二本柱となります。


うつ病・うつ状態は「トンネル」と同じです。生きていれば何度か遭遇しますが心配は要りません、必ず出口があります。
大事なことは、その「トンネル」が「どのくらいの長さ」で、「自分がどの辺りを歩いているか」を知ることです。「自分の位置」を知るだけでも不安やうつ気分がかなり解消されると思います。
うつの治療とは、いわばその「トンネル」を短くする作業です。
うつ病・うつ状態は治療により数ヵ月の経過で回復しますが、長引くこともあるため焦らずゆっくり静養することが大切です。
回復後も再発することがあるため予防的に薬物療法を継続することもあります。


うつは、「脳の過労状態」と考えることができます。
運動後の筋肉疲労は数日で回復しますが、脳疲労は回復まで数ヵ月を要します。その回復を促進する目的で休養を取り、抗うつ薬を服用するのです。

 

「うつ状態」はうつ病のほか、適応障害、不安障害、発達障害、認知症、統合失調症など様々な疾患で見られます。
とくに適応障害による「うつ状態」が最も多く見られます。

適応障害

適応障害

現代社会において、多くの人が職場や家庭で様々な悩みを抱えており、ストレスや緊張の高い状態が続くことによって、うつ症状や不安症状を引き起こすことがあります。このストレスが原因で心身の不調を来し、社会生活や家庭生活に困難が生じることを「適応障害」と呼びます。
ストレスは多岐にわたり、仕事のストレス(過労、転職、転勤、昇進、異動)、人間関係のストレス(パワハラ、セクハラ、無視、いじめ、嫌がらせ)、家庭のストレス(嫁姑問題、介護、子供の非行や引きこもり)、健康面のストレス(がん、難病)などがあります。
 
症状も多彩で、うつ症状、不安症状、身体症状(頭痛、吐き気、動悸)、行動面の症状(無謀運転、アルコール乱用)などがあります。
数ヵ月間の休養と補助的な薬物療法で回復しますが、会社員の場合はストレスから離れる目的で休業が必要になることもあります。
復帰後は配置転換、業務軽減などの環境調整も大切です。
 
同じ「うつ状態」でも、「うつ病」より「適応障害」の方がはるかに多く見られます。

不安障害

不安障害

「不安」とは「対象のない漠然とした恐怖心」を意味し、「怖いけど何が怖いか分からない」という苦痛の強い症状です。
交感神経が過剰に興奮したり(パニック障害)、無意識に日常生活の中で不安の原因を見つけ出す(強迫性障害)ようになります。
不安は不安障害に限らず、あらゆる精神疾患に認められる最も多い症状のひとつです。
不安障害には以下のような種類があります。

 
  • 全般性不安障害~ 不安や心配が頭から離れない、常におびえ緊張している
  • パニック障害~  突然、息苦しくなり、動悸、冷や汗、しびれ、意識が遠のく
  • 強迫性障害~   玄関ドア、電源スイッチ、ガスの元栓、手の汚れなどが気になり何度も確認する
  • 解離性障害~   強いストレスや葛藤から、喋れない、手足が動かせない、記憶が飛ぶ、人格が代わる
  • 社交不安障害~  人前に出ると極度に緊張し動悸、ふるえ、汗が出る、スーパー、駅など人混みが怖く外出できない
  • 心的外傷後ストレス障害(PTSD)~ 過去のトラウマからフラッシュバック(不安、うつ、脱力、動悸など)を起こす
  • 身体表現性障害~   不安、緊張、ストレスから身体症状(頭痛、めまい、動悸、吐き気、下痢)が生じる 
  • 心気障害~    身体症状を過度に心配し医者巡りをする、「異常なし」と言われ余計不安になる
  • 恐怖症~     対人恐怖、自己臭恐怖、高所恐怖、閉所恐怖、不潔恐怖など
 
仕事や日常生活への支障が高度な場合は、抗不安薬、抗うつ薬、睡眠薬などを症状に応じて使い分け、苦痛を緩和させます。
生来の性格や幼少時の体験が関係していることもあって長期化することもありますが、根気強く治療を続けることが大切です。

睡眠障害(不眠症)

睡眠障害(不眠症)

不眠は精神科や心療内科で最も多い症状で、様々な精神疾患に高頻度に認められます。
これはいくつかの不眠パターンに分類されます。
 
  • 入眠困難~布団に入ってもなかなか寝付けない
  • 中途覚醒~夜中に何度も目覚めてしまう
  • 早朝覚醒~早朝(3時、4時)に目覚め、その後眠れない
  • 熟眠困難~全体に眠りが浅く、日中寝不足となる
 
生活指導、睡眠衛生指導とともに上記不眠パターンに合わせた睡眠導入薬を利用します。
精神疾患や身体疾患から不眠が出現する場合は主疾患の治療を優先します。

統合失調症

統合失調症

統合失調症とは成人早期に始まり、急性期の幻覚・妄想などの感覚過敏症状や慢性期の意欲や感情表出の低下などを特徴とする脳の病気です。
 
幻覚とは実際に存在しないものを知覚することで、五感に合わせてそれぞれ、幻聴、幻視、幻嗅、幻味、幻触と呼ばれます。
統合失調症では幻聴が多く、まれに幻視や幻嗅が見られます。
妄想とは間違った考えや信念のことで、本人は訂正不能のため周囲との軋轢や衝突を生じます。
 
急性期には以下の症状が出現します。
・幻聴〜   人の声が聞こえる(自分の悪口、非難、中傷、命令、禁止)
・注察妄想〜 監視されている、盗聴されている、ジロジロ見られている
・被害関係妄想〜 自分のことを噂している、誰かから狙われている
・思考伝播〜 喋っていないのに自分の考えが周りに知られてしまう
 
慢性期には以下の症状が出現します。
・意欲減退〜 やる気が出ない、自発的に行動しない
・感情鈍麻〜 喜怒哀楽の感情が乏しくなる、身だしなみや衛生面に無頓着となる
・無為自閉〜 何もせず終日横になっている、人との関わりを避け自室にひきこもる
・認知機能障害〜 注意力の低下、記憶や学習が困難となる
 
近年は精神疾患の啓発による早期発見や薬物治療の進歩により慢性期への移行や重症化が減り、社会復帰可能な病気に近づきつつあります。
薬物療法、疾病教育、心理社会的アプローチ、精神科リハビリなどの治療を組み合わせます。

双極性障害(躁うつ病)

双極性障害(躁うつ病)

病的な気分上昇(躁)と気分下降(うつ)を繰り返す病気です。
これには、「躁状態」と「うつ状態」を繰り返すI型と、「軽い躁状態」と「うつ状態」を繰り返すII型があります。
I型の「躁状態」は、入院による行動制限や刺激遮断が必要なことが多いため、外来治療は困難です。
II型の「軽い躁状態」は見逃されやすく、「うつ病」と診断され抗うつ薬でなかなか改善せず長期化することがあります。
「躁状態」「うつ状態」ともに気分安定薬、抗精神病薬などの薬物治療が中心となりますが、再発しやすいため寛解後の予防療法がとても大切です。
 
◎躁状態になると以下のような症状が認められます。
・気分高揚
・自尊心肥大、自信過剰
・多弁、多動
・活動性亢進
・易怒的
・転導性亢進、注意散漫
・睡眠欲求の減少
・食欲減退、やせ
・浪費、アルコール乱用

アルコール依存症

アルコール依存症

アルコール依存症とは、「病的飲酒欲求」と「飲酒コントロール喪失」を特徴とする脳の病気です。
 
「病的飲酒欲求」とは、病的なほど強い飲酒欲求という意味で自分の理性では抑えることができません。このため、飲んではいけない状況、時間、健康状態と分かりつつ飲んでしまうため、状況をさらに悪化させてしまいます。
 
一度アルコールを口にすると「飲酒コントロール喪失」という飲酒に対するブレーキの故障により飲み続けの状態となり、最後は飲酒中心の生活になってしまいます。
 
依存が形成されると離脱症状(いわゆる禁断症状)が出現することがあります。酒が切れると不眠、イライラ、手のふるえ、発汗などが出現するため、さらに止められなくなります。
 
この結果、遅刻早退、無断欠勤、酒気帯び勤務、仕事中のミスや事故、離職などの職場不適応や、別居、離婚などの家庭問題、肝障害、慢性膵炎などの健康障害を引き起こします。社会生活、家庭生活、身体的健康を脅かす非常に裾野の広い怖い病気です。
 
他の依存症(ギャンブル、買い物、薬物)と同様、アルコール依存症は完治するものではなくコントロールする病気です。治療によって心身を回復させ、治療を継続することにより断酒を維持してゆきます。高血圧や糖尿病などの生活習慣病と同様、うまくコントロールすればまったく支障(合併症)なく生活が送れます。しかし再発(再飲酒)することもあるため、長期にわたる根気強いケアが必要です。
 
「飲めば様々な問題や合併症で苦しむ」、「飲まなければ普通に生活できる」という観点から、アルコール依存症をアルコールに対するアレルギー体質(アルコールアレルギー)と例えることもできます。
 
定期通院と薬物療法、教育プログラム、自助グループへの参加などで回復への支援をします。最近は従来の断酒治療に加え、軽症例や治療導入困難例に対しては減酒治療も実施されるようになりました。
 
現在、断酒補助薬として、アルコールが飲めなくなる薬、飲酒欲求を抑制する薬、減酒補助薬として飲酒量を減少させる薬があります。

認知症(アルツハイマー型認知症)

認知症(アルツハイマー型認知症)

「同じ話を何度もする」、「食べたことを忘れ二度食いする」、「時間、場所が分からなくなる」、「炊事、洗濯がきちんとできなくなった」などが認知症の記憶障害、認知機能障害、見当識障害から起こる中核症状です。次第に日常生活が困難となり、本人も落ち込み、イライラや焦りが募り、家族との衝突も増えます。二次的に妄想、興奮、不機嫌、徘徊、不眠などの精神症状や行動異常が出現することもあります。

 

認知症は年単位でゆっくりと進行するため完治はありませんが、抗認知症薬(認知症の進行を抑制する薬)を利用して家族の介護負担の軽減を図ることもあります。精神症状や行動異常が出現した場合は、環境調整や少量の抗精神病薬などにより症状の緩和を目指します。

 

認知症には、上記アルツハイマー型認知症のほか、幻視やパーキンソン症状などが先行するレビー小体型認知症、脳出血・脳梗塞後の脳血管性認知症、性格変化から始まる前頭側頭型認知症などがあります。

発達障害(自閉スペクトラム症)

発達障害(自閉スペクトラム症)

発達障害は、生まれつきの脳の機能障害と考えられていますが、「脳の発達のアンバランス障害」と解釈することもできます。発達障害には、自閉スペクトラム症(自閉症、アスペルガー症候群)、注意欠如多動症(AD/HD)などがあります。
 
アスペルガー症候群は、言語機能や記憶力や機械的作業能力が高い反面、場の空気を読んで行動する、相手の感情を読み取り共感する、環境の変化に柔軟に対応する、などが苦手です。言語性機能と動作性機能の開きが大きい(言語性優位)、細部への敏感さと対人関係の鈍感さが共存する、などの特徴もあります。知能や言語機能の遅れはないものの、社会性に乏しく、コミュニケーションや対人関係が不器用なため、学校では、いじめられたり、からかわれたりすることが多く、社会に出ると、仕事や対人関係でつまずいて不適応を起こし、二次的に、不眠、不安、うつを呈することがあるため、対症的に薬物療法を実施することもあります。
 
注意欠如多動症(AD/HD)は、「多動」、「不注意」、「衝動性」を主症状とする発達障害です。成長に伴い「多動」は目立たなくなる傾向がありますが、「不注意」や「衝動性」は成人以降も続き、家庭や職場での様々な困難や苦悩を生じることもあります。
注意欠如多動症の社会人は、明らかな知的障害がないのにもかかわらず、注意・集中の困難から業務パフォーマンスの低下がみられます。
仕事の覚えが悪い、同じ失敗を繰り返す、ケアレスミスが多い、複数のことを段取りよく処理できない、計画性なく思いつきで行動する、などの共通点があります。「話を聞いているのか」と注意されることが多いのも特徴です。
近年、この注意欠如多動症の症状を緩和させる薬が開発されました。
 
アスペルガー症候群が統合失調症、うつ病と診断されたり、注意欠如多動症が双極性障害、うつ病、不安障害と診断されることが多く、発達障害は見落とされたり、他の精神疾患と併存することが多いのも特徴です。

月経前症候群(PMS)・月経前気分不快障害(PMDD)

月経前症候群(PMS)・月経前気分不快障害(PMDD)

月経前の1~2週間に生じる心身の不調を月経前症候群(PMS)といいます。精神症状として、イライラ、抑うつ、不安、情緒不安定、集中力低下、過眠などがあり、身体症状として頭痛、倦怠感、過食、便秘、腹満感、むくみなどがあります。症状はとても多彩で個人差がありますが、月経周期と連動して増悪・軽減するのが特徴です。

 

月経前症候群(PMS)のなかで精神症状が強く家庭生活や仕事に支障を来すものを月経前気分不快障害(PMDD)といいます。感情の起伏が激しく、怒りや攻撃性を抑えられず家族との衝突を繰り返す場合は、薬物にて治療や予防することもあります。

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